STORY 4東みよし町のまちづくり~哲学カフェ~

現代地域社会には、さまざまなテーマについて自由に議論できる場がありません。その理由は、社会問題や地域が抱える問題、生活の悩みなど、いわゆる「マジメ」な話をすることはマナーに反するからではないでしょうか。いわばタブーであり、話し手は話していいのかどうか、聞き手はどう反応していいのかわからないからです。しかし、お互いに話をしなければ、問題意識を共有することも、ましてや一緒になって解決に向けて行動することもできません。

また、超高齢化社会の到来により、高齢者の社会参加は深刻な課題となっています。 いわゆる「会社人間」として人生の大半を過ごしてきた高齢者は、地域とのつながりが希薄であることが多く、新入社員のように地域に入るのは大変勇気がいるばかりか、そこでどうコミュニケーションをとっていいかわからず、入り口でつまずくことが多いのです。

徳島県三次郡東みよし町には、3ケ月に一度、日曜日の朝、さまざまなテーマについて語り合う「哲学カフェ」という集まりがあります。コーヒー代さえ払えば、誰でも参加でき、名乗る必要もないです。しかし、哲学カフェには、一定のルールがあります。話したい人は、どんな意見でも述べ、話したくない人は、ただ聞くだけでもいいです。結論を出す必要も、コンセンサスを得る必要もないです。参加者がさまざまな意見を出し合うだけのことです。関西学院大学の山泰幸教授は、2009年から長期密着型のフィールドワークを行っている徳島県東みよし町にて、2015年から哲学カフェを定期的に運営しています。山教授は、フランス留学中に哲学カフェに出会い、まちづくりに役立つと直感し、帰国後、いくつかのまちづくりの場に導入しました。

徳島県三好郡東みよし町

哲学カフェというと敷居が高いイメージがありますが、実は様々な問題について深く考え、意見を交わす貴重な社会参加の場なのです。そこに地元の知識人が集まり、議論を通じて互いの存在を認識するようになります。また、参加者が一緒に場を作り上げる体験を通して、場づくりのためのコミュニケーション術を学び、より完成度の高い場にするための機会にもなっています。さらに、このようなマナーを身につけた人たちが、新しい人脈を作り、さまざまな地域活動を展開しています。全国各地で研究者によって様々な哲学カフェが運営されていますが、この哲学カフェは唯一、まちづくりを目的としています。

第11回哲学カフェ(2018.6.17)テーマ「豊かさ」 
写真:関西学院大学 山泰幸教授 提供

今、まちづくりの現場では、このように議論するための場のデザインが求められています。

(文:具 本埈)

共創のストーリーとは

実社会の課題に対する共創の取り組みを、研究者や住民の方々からのヒアリングと文献等を基に独自の視点でまとめたものです。
※研究プロジェクトの概要とは異なります。プロジェクト全体の研究内容や成果の詳細を知りたい方は以下の参考文献等をご参照ください。

参考文献:

山泰幸(2022)、語り合う場のデザイン ── 哲学カフェの試みから、DRPI Newsletter No.101、p7。